リハビリを支えてくれるセラピーキャット
ボブを迎えられたカジイさん
取材・文 金子志緒 撮影 石原さくら

カジイさんご夫妻とボブ(オス・1歳)
脳梗塞の後遺症がある夫のよき話し相手

猫を迎えようと思ったきっかけを教えていただけますか。
奥様 主人が2年前に脳梗塞を発症して、重い失語症や右半身麻痺の障害を負ったことです。話しかけられた内容は日本語・英語ともに理解できますが、発語や外出が難しくなってしまったので、ひとりで過ごすときに話しかける相手がいたほうがいいかなと思ったんです。
助けられる場面が多い主人にとって助ける存在がいれば、自立へのトレーニングにもなりますよね。毎日の散歩が必要な犬は難しいけど、猫なら片手でごはんをあげたりと世話ができますから。
里親になったボブとは ペットのおうち®︎ で出会ったんですよね。
奥様 周りに保護犬を迎えた知り合いがいたので保護猫もいるかと探したら ペットのおうち®︎ を見つけたんです。最初は里親を探している猫がたくさんいることに衝撃を受けました。私は猫が好きなのでどの子もかわいく見える。でも、いつも目に留まる猫がいたんです。新たな保護猫が次々と登録されるなかでも、不思議と目に留まる。それがボブでした。さっそく主人に「この子がいいよね」と聞いたらすぐ「OK」と(笑)。
ご主人 そうだね。かわいかった。
奥様 健康でおとなしい性格で大きくなりそうな子、という希望にマッチしたことも理由ですね。主人はもともと犬が好きなので、猫を選ぶにしても小さくないほうがいいなと思っていたからです。

ケージから出てきたところを抱き上げて、「Hi Bob」と話しかけるご主人
ボブがご家族に加わり、ご主人のリハビリにはどのような影響がありましたか?
奥様 ずいぶん言葉が出てくるようになったよね。動物は返事をするわけではなくてもトレーニングへのサポート力があります。最初は単語だけだったのが、「ボブは、かわいいね」とか「What's your name?」とか、センテンスで言えるようになったんです。
ご主人 そうだね。(会話の相手がいるのといないのとでは)だいぶ違うよ。

ボブのことをどんなふうにかわいがったり話かけたりしているのか教えてください。
ご主人 ボブをなでたり。「かわいいね」と(言っています)。
奥様 犬も猫もごはんをくれる人が好きじゃないですか。私もごはんをあげますが、一緒にいる時間が長いせいか、主人によくなついていますね。一生懸命話しかけているよね。
ご主人 うん。(話しかけるのは)日本語。英語はあまり。日本語が多い。
家族の"末っ子"はいたずらさえもかわいい?

自宅を離れて大学に通っている息子さん(左)と娘さん(提供:カジイ様)
ボブはご家族のことをどのように見ていると思いますか?
ご主人 お父さんとお母さん。
奥様 うちの3番目の子ども、まるで末っ子のようです。おもしろいことに、子どもたちも弟のように接しています。主人はしっかり"お父さん"ですよ。ボブが危ないことをしそうになったときに、「それダメだよ」と注意したり。
ご主人 (キッチンのガスコンロを指さして)危ないときだけね。
奥様 ボブは出窓に登って近所のコンビニに出入りするお客さんを眺めるのが好きなんです。だからコンビニを"ニャルソック"する部屋のカーテンは、爪の跡がバリバリバリと入っていますが、主人はもちろん気にしません(笑)。
ご主人 そうだね。(いたずらには)怒らないよ。

ソファに爪とぎの跡がちょっとついていますが......。
奥様 絶対に怒らない(笑)。むしろソファを買い換える口実として、爪とぎでボロボロにしてほしいのかも。
ご主人 そう。あまり気に入っていないので(笑)。
奥様 このソファは大きいから、大柄な主人と並んでボブもくつろげていいと思うんですけどね。主人がリハビリ用のマッサージ機で隣にいるボブをマッサージしている様子がかわいいんですよ。
ご主人の"お父さん"らしいエピソードはほかにもありそうですね。
奥様 ボブが「ごはんを食べたい」とジーンズをカリカリと引っかくと、主人は何をおいてもごはんの準備をすることですね。早朝に催促されたときにもちゃんと起きてくれるので助かっています。思いがけず規則正しい生活になりました。

おねだりが激しすぎてごはんをあげてしまうご家庭もあるようですが......。
ご主人 ボブは大丈夫。
奥様 ごはんを置きっぱなしにしないで容器に1日分を分けて、そこからあげています。食いしん坊なのでなんでも食べますが、おやつは特に好きですね。
ご主人 おいしいからね。
初めて迎えた猫の世話で困ったことはありませんか?
ご主人 ないですね。
奥様 主人はないと思います。猫を迎えたらトイレの掃除をするという約束に「OK」と言っておいて1回目からやらないので(笑)。猫を飼ったことがないから、掃除の大変さを想像できなかったのかなと思いますが......。約束を守るように言ったら、猫の自動トイレを検索していつの間にか買っていました。でも常にきれいだからボブにとっても快適でよかったと思います。

困り顔に見えるというボブですが、カジイさんとの生活に大満足していると思います。
奥様 もしかしたら不満があるかも(笑)。実はボブがもふもふで暑そうだったので、私が昨日バリカンでおなかの毛をカットしたらガタガタになってしまったんです。「撮影があるのにしまった!」と思ったんですよ。
カットされたボブの姿を見て、ご主人は驚いたのではないでしょうか?
ご主人 ちょっとね。
奥様 主人は、カットの失敗よりも暑そうなのを心配しています。「ちゃんとカットしたほうがいいよ」と言っていたくらいです。ちゃんとトリミングサロンでサマーカットにしてもらおうと思います。
「ボブには友達が必要」2頭目への夢がふくらむ

犬が好きなご主人から見て、初めて迎えた猫であるボブのかわいいところを教えてください。
ご主人 目がきれい。犬と違う目。
奥様 表情も違うよね。キジトラだけど半長毛なのも変わっているし、アイラインがちょっと下がっているので困った顔をしているように見えるんです。子どもたちもボブに夢中で、息子が帰ってきたときはすすんでペットシッターをしていますよ。娘は「ダディの仕事は1日1回、私にフレッシュなボブの写真を送ること」と言っているくらいです。

ご家族全員がボブに夢中なんですね。もしかして2頭目も......?
奥様 そうなんですよ! 実はボブのお見合いに行ったときに、主人が「ボブのきょうだいも一緒に連れ帰ろう」と言い出したんです。でも私は猫と暮らすのが久しぶりで、主人に至っては初めてです。自信がなくてまずは1頭からと思いました。でも、ボブが小さいうちのほうが受け入れやすいかなと思っています。主人は毛がショートでもゴージャスな雰囲気の猫が好きで、今もよく ペットのおうち®︎ を見ているんです。
ご主人 (検討している猫の写真を見せながら)This cat.
この猫のどういうところが好きですか?
ご主人 Gray hair color.
奥様 毎日のように「この子はどう?」と2頭目を想像してワクワクしているんです。息子からも「ボブに友達が必要だから2頭目を迎えたほうがいい」とすすめられていますが、災害を想定して慎重になってしまうんですよね。主人がひとりでいるときでもボブと避難できるようにバックパック型のキャリーをセットしてあります。
ご主人 (2頭でも)大丈夫だよ。

里親を検討している方々に、カジイさんのような幸せな生活が待っていることを伝えたいですね。
奥様 動物を迎えることは大変なこともありますが、私たちはボブから笑顔をもらいました。かわいいだけでなく、心を癒やしてくれるセラピーキャットです。実は機会があってボブと主人が今夏に脳疾患とアニマルセラピーの臨床研究に参加することになりました。
ご主人 うん。楽しみだよ。
奥様 以前から家族でファシリティドッグ(病院や施設で職員となって働く犬)のチャリティー活動に参加してきたこともあって、動物の力を感じる場面がたくさん見てきましたが、ボブを迎えてから私たち家族全員が癒やされています。
今回の取材を通して保護猫や保護犬を迎えることを迷っている方、私たちと同じように障害や介護を抱えるご家族に、動物が心を支えてくれることを知っていただけたらうれしいです。
取材・文 金子志緒 撮影 石原さくら