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「猫またぎ」とは決してバカ映画の巨匠河崎実が作りそうな猫が主人公の猟師の物語ではありません。
猫が食べずにまたいでしまうほどのまずい魚。転じて無価値なものの意味にも使われることがあるようですが、はたして猫がまたいでしまうほどほどの魚とは?
「猫が食べられないほど骨ばかりで食べる身のない魚」「人間がきれいに食べてしまって骨だけになってしまった魚」など、地方によって解釈が違うようですが、一昨年亡くなった猫好きで兄妹猫を二匹飼ってした叔父が昔、猫またぎとは?という問いに対して「塩引きの鱒のことよ」と即答されました。
塩鱒というと秋に捕獲した鮭と異なり、春先に沿岸で取った青鱒を塩蔵して水分を抜き日持ちさせたもの。昔は冷蔵保存技術がなかったため、今と違って年中鮭が食べられるというわけではなく、秋から冬にかけては鮭の塩引きが。春先から初夏にかけては鱒の塩引きが食べられていたようなのですが、これが塩がきつくて焼いた切り身は塩が表面にまんべんなく浮いてしまい、この塩鱒に切り身でご飯4杯くらいのおかずにはなるということで、どうも貧乏人のおかずとされていた節も。
よく「戦前、炭鉱の坑夫の弁当は焼いた塩鱒のっけた弁当。水は一升瓶持って坑内に入った」などと言われていました。
その塩分のきつい塩引きの鱒は今と違って製造過程での温度管理が悪かったものは鮮度落ち状態で塩引きされたものも多く、味も悪かったものも多かったらしく、第一に塩がきつくて猫が食べようにも食べられなくてまたいでしまうの意味と、第二に猫も食べないほどまずいという意味の二つがあったようです。
北海道の春先に沿岸で獲れる鱒はサクラマスと青マスの二種類です。サクラマスは北海道でいう「ヤマベ」、本州でいう「ヤマメ」の降海型で、川で孵化したメスのほとんどとオスの一部が海に下って成長したものがサクラマス。そのため川のヤマベはオスばかりなのです。
そのため、サクラマスは割に量は獲れず、もっぱら鱒として漁獲されるのは青マスですが、この青マスが成長して川に産卵するために遡上するとどうなるかということはあまり突き詰めて調べたこともなく「トリ肉ってなんの肉?」状態だったのですが、今回調べて初めて納得しました。その青マスの正体はカラフトマスだったのです。
カラフトマスといえば鮭缶の中身として普通に食べられているのですが、表示もカラフトマス(サケ)と書かれている通りれっきとした鮭で、産卵のため川に遡上して一生を終わるというのは産卵しても死なない鱒とは異なり鮭の生活史そのもの。
よくアイヌの木彫りに鼻の曲がった鮭がモチーフになることがありますが、鼻曲がりは繁殖期に入ったカラフトマスのオスのみの特徴。夏場で知床のクマが遡上した鮭を食べているシーンがよくありますが、あれは遡上が秋鮭よりも早いカラフトマスです。
その青マスとして春先に沿岸で捕獲されるカラフトマスですが遡上前の繁殖期前ということもあり、脂の乗りも良くて特にフライとして子供の時にはよく食べてました。ニジマスの降海型を養殖したとされるトラウトサーモンよりも癖がなく脂乗りも十分で、旬の青マスは秋鮭のメジカには及ばないものの、「猫またぎ」の正体としては実に「勿体ない」。
当然、鮭の切り身として鮭弁の上に乗っていてもおかしくないのですが、北海道人は鮭の切り身には特にうるさく、スーパーの幕の内弁当でも通常紅鮭、大手弁当チェーンでも秋鮭じゃないとダメで、塩鱒が入っていたらクレームが来そうなものです。
20年ほど前、佐賀駅で幕の内弁当買って佐世保に向かったのですが、おかずの味付け等申し分なかったのに鮭の切り身が塩鱒だったのが鮭の切り身にこだわらない地域性を感じさせました。
秋鮭はうろこが若干大きくて青鱒=カラフトマスはうろこが小さい、トラウトは皮に斑点があるという違いがあります。
それで、北海道で猫またぎと呼ばれる塩鱒を本当に猫が跨いでしまうかどうかの実験。
とはいっても、そもそもうちの猫どもは刺身さえそっぽ向いてしまうような肉食派ですし、昔のような焼くと塩が吹き出してくるような塩引き、まして鱒の塩引きなんか普通には売っていません。
さる地元資本のスーパーで5枚カットされて真空パックになった塩鱒を入手。甘塩なのはわかっているので、少々塩を振ってなじませ、焼いてベルクさんの晩御飯前のおそらくは空腹状態の時に目の前に出してみたのですが~。
その結果は少し匂いを嗅いだだけで嫌がって跨ぐどころか皿の上をジャンプしてどこかに行ってしまいました(笑)
まあ、なんとなく結果はわかっていたのですが、猫またぎじゃなくて猫跳びになってしまうとは(^^;)
あとは人間がいただきましたが、昔のまずくてしょっぱい貧乏なおかずのイメージと違い、未成熟の回遊中の鮭を沖獲りした「メジカ」に迫るくらいの癖がなくて脂の乗りも申し分ない塩引きです。
3枚目、ますますミミズクかフクロウのシルエットに似てきたうにちゃん(笑)