名前に込めた思いは「最上級の幸せを!」
シーマを迎えられた原田聖子さん(東京都)
取材・文 金子志緒 撮影 石原さくら
原田さんとシーマ(メス・9か月)
収容期限が迫る子猫を忘れられない
シーマは原田さんが山口県の周南健康福祉センターまで行って引き取ったそうですね。
原田さん 最初は ペットのおうち®︎ に掲載されていた野犬の保護犬が気になっていたんです。収容期限が数日後に迫っていたので保護団体さんに連絡したら、「まずは活動を見に来ませんか?」と誘われたことが山口県まで行くきっかけになりました。
迎えてから間もない生後3か月ごろのシーマ
もともと保護犬を迎えることを検討されていたのは意外でした。
原田さん 周南健康福祉センターで収容期限を迎えた野犬の引き出しに、朝から立ち会っていたとき、ケージの中で「ニャーニャー」と自己主張している子猫が目に入ったんです。期限当日なのに、引き取り手がまだいない子でした。心に引っかかりながらもセンターを出て保護団体さんの施設を見学し、東京に帰ろうと思ったんですが、やっぱり取り残されていた子猫が忘れられなくて......。
もしかしたらと ペットのおうち®︎ を調べたら、掲載されていたんです。すでに夕方だったので掲載主さんに連絡したら、まだ譲渡は決まっていないと。巡り合わせと思って、「私が引き取ります」と伝えました。その子がシーマです。出会えたのは彼女の人懐っこさや持っていた運のおかげかもしれませんね。
今回は保護猫のシーマとのご縁がつながったわけですね。
原田さん 迎えるなら引き取り手が少ない野犬の成犬と決めていたんですが、すでにわが家にいる3匹の保護猫との相性も気になって、即決とはいきませんでした。山口県のドッグトレーナーに猫と暮らすためのトレーニングを相談しましたが、野犬は数か月では難しいと言われてしまったんです。
幸いにも野犬は保護団体さんに引き出されたので、今回は4匹目の保護猫としてシーマを迎えようと思いました。その後、保護団体さんに連絡したところ、「周南の猫を引き取ってくださってありがとう」とやさしいお返事をいただきました。
急なことで連れ帰るのは大変だったと思います。シーマの体調や先住猫たちとの相性はいかがでしたか?
原田さん 保護団体さんの活動を学ぶつもりで山口県へうかがったので、キャリーも何も準備をしていなかったんです。収容期限が迫る状況に焦ってシーマの掲載主さんに相談したら、センターへの引き出しの付き添いやキャリーの用意までしてくださって、なんとか自宅へ連れ帰ることができました。
とはいっても、猫風邪などの感染症の治療や駆虫薬の投与が終わるまでは、先住猫たちにうつらないようにしばらくケージで隔離しての生活。先住猫は遠くから警戒していましたが、治療中の隔離期間が慣れる時間にもなりました。ちょうど治療を終えたタイミングで引っ越しをしたので、新居で対面させたらあっさりとなじんで仲間になっていました(笑)。おかげで毎日がすごく賑やかです。
賑やかなキジトラ祭りは毎日開催中!
シーマは推定で2024年9月生まれ。健やかに成長して、そろそろ生後6か月になりますね。
原田さん シーマは元気いっぱい、気が強すぎるくらいです。先住猫のお兄ちゃん・お姉ちゃんへの猫パンチや体当たりも激しすぎます(笑)。シーマは顔立ちがワイルド系で、毛色もリビアヤマネコみたい。目の色もちょっと違うカッパー色と言うんでしょうか。これまで暮らしてきた猫たちとは雰囲気が違いますね。
先住猫が3匹いて、その前からずっと保護猫と暮らしていたとうかがいました。
原田さん 20年ほど前に自分で保護した三毛のルルと黒のキキが始まりです。ルルが18歳半で亡くなってから、飼い主募集サイトを見ていたところ、ルルにそっくりの子猫がいたんです。掲載主さんに連絡したら「シニアのキキに負担がかからないように2匹いたほうがいい」とすすめられて、三毛のミオとキジトラのテオを迎えました。
しばらくして、キキが17歳半で亡くなったのですが、そのタイミングで掲載主さんから「テオのきょうだいがトライアル先から戻された」と聞いて、これは運命かもしれないと思い、ノエルも引き取ったんです。今回、テオ、ミオ、ノエルの3匹が大人になってきたところというのもあって、シーマが加わっても大丈夫かなという気持ちがありました。
左からシーマ、ミオ(メス・1歳10か月以下同)、テオ(オス)、ノエル(メス)
多頭暮らしのご家庭でも、きっとキジトラが3匹もいるのは珍しいですよね。
原田さん 三毛のミオ、キジトラのテオとノエルのときは、「ブルゾンちえみ with B」みたいでバランスが取れていましたが(笑)、今はヤマネコみたいなシーマが中心です。特にキジトラに強い思い入れがあるというわけではないんですが、ご縁があってキジだらけになりました。 周りには「よく見分けがつくね」と言われますが、キジトラでも毛質が違ったり、性格もそれぞれ。好きなおもちゃもみんな違うので、遊ぶときは手が足りなくて大変です。キジトラは世の中に一番多い毛柄だと聞いていますが、飼い主さんは全員、「うちの子が一番かわいい」と思っているはずです(笑)。
猫たちの個性的な名前からも愛情を感じます。
原田さん じつは名付けにもこだわりがあります。動物病院では「原田○○ちゃん」と呼ばれるじゃないですか。名字との画数が良い名前をChatGPTに候補に出してもらって決めました。シーマはスペイン語で「頂上」「最上級」という意味があるので、最上級の幸せをつかんでほしいという思いを込めています。
これから4匹の猫たちとどんな暮らしをしていきたいですか?
原田さん マンションから戸建てに引っ越したのも、この子たちがストレスなく豊かな猫生を送ってほしいという思いがあったから。じつは新居を見つけられたのは、先住猫を譲渡してくれた保護活動をされている方のおかげなんです!猫たちにとって安全で快適な家を一緒に選んでくれたんです。旅行などで家を留守にするときにはお預かりもご相談できるので心強いですね。
あとは私が猫のために健康に気をつけて、がんばって働き続けることが目標でしょうか。友人には「猫ファーストだね」と笑われています。
猫たちと出会って私の人生は広がった
保護猫を迎えてよかったと思ったことを教えてください。
原田さん 私は20年前から保護猫と暮らして、殺処分の問題も知ってはいるつもりでしたが、いわゆる保健所の中に入ったのは今回の周南健康福祉センターが初めてだったんです。実際に行って見るのとでは全然違いました。周南エリアで起こっている野犬の問題も知りませんでした。自分のできることから応援したいなと思って、また山口県に行くつもりです。ペットのおうち®︎ がきっかけで、そうした問題と向き合って活動を最前線でされている方々やシーマに出会えて、私の人生が広がったように感じています。
周りの方は原田さんが猫たちと幸せそうに暮らしている姿を見て、影響を受けているのではないでしょうか。
原田さん 私が保護活動を学んでいることは友人や同僚も知っています。だから「子どもが猫を飼いたがっているんだけど、どうすれば保護猫を迎えられる?」「用意しておいたほうがいいものは?」と聞いてくれるのはうれしいですね。顔見知り程度の方までわざわざ声をかけてくれることもあり、会話や交流の輪が広がっていると感じます。「猫はドライな性格でしょう?」と聞かれたときには、「いやいや、毎日出迎えに来るよ!」と、うちの子自慢をしてしまいました(笑)。
SNSを始めたら動画が20万回も再生されたこともあって、「猫との暮らしは楽しそう」と思っている方は、意外と多いんじゃないかなと感じています。もちろん犬との暮らしも格別だと思います。
最初に迎えるつもりだった保護犬に心残りがあるようですね。
原田さん 子どものころには犬がいたので、また一緒に暮らしたい気持ちがあるんです。今の新居を選ぶときにも、犬との散歩にぴったりの公園が近いことも決め手になりました。シーマがもう少し大きくなったら保護犬を迎えに行きたいですね。引き取り手が少ない野犬を選ぶつもりです。
ただ、野犬を引き取った同僚に話を聞くと、ある程度の年齢で迎えた場合は慣れるまでに時間がかかるそうです。でも、センターで壁に顔をつけて縮こまっている姿を見てしまうと、私のエゴかもしれませんが、もし引き受けられたら犬生をちょっとでも豊かにできるかもしれないと思うんです。それに1頭を引き受ければ、次の命が救えるかもしれないと考えています。
これから保護猫・保護犬を迎える方に、お伝えしたいことをうかがえますか。
原田さん 私は保護猫を迎え入れてからすごく幸せな日々を送っています。この子たちが来てくれて本当に良かったと思っています。思い通りにいかないこともきっとありますが、それは人間でも動物でも同じではないでしょうか。トライアルの途中であきらめないで、ぜひ長い目で見てください。
健康管理やトレーニングが十分ではない場合もあるので、最初は医療費やケアの手間がかかるかもしれませんが、ひととおりの検査や治療が終われば楽しい暮らしが待っています。初めて保護犬・保護猫を迎える場合は、気軽に相談に乗ってくれて経験豊かな保護団体さんを選ぶとよいかもしれません。ペットのおうち®︎ には過去の掲載情報も残っているので活動内容も見られます。思いがけない出会いから広がる世界があることが、少しでも伝わるとうれしいなと思います。
取材・文 金子志緒 撮影 石原さくら