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できるだけ命を無駄にしない生き方を実践する

エディンを迎えられたYさん

約4年前にペットのおうちでエディンを迎えたY・Tさん、妻のKさん、息子のSさん。保護犬を家族として迎え入れたストーリーをお伺いしてきました。

取材・文 スタジオダンク

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左からSさん、エディン、Kさん、Tさん

ペット業界と畜産業に共通する課題

エディンの前に犬を飼っていた経験はありましたか?

Tさん 2019年まで、マリアというラブラドールレトリーバーと一緒に暮らしていました。もともとの飼い主は妻の母で、彼女が高齢になったことから私たち家族が引き取ることに決めました。私個人として犬を飼うことは、マリアが初めてでした。

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イギリス在住時のマリア、Tさん、Sさん

Kさん 私の場合はエディンが4匹目です。子どもの頃は捨て犬を拾って飼い主を探したこともあり、常に身の回りに犬がいるような生活でした。

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現在のエディン

保護犬について知ったきっかけはなんだったのでしょうか?

Kさん 夫の留学で2013年から2020年までイギリスに住んでいたのですが、そこで保護犬の存在を知りました。イギリスにはマリアも一緒に行ったのですが、マリアのお散歩中にお話しする犬友達の中には "rescue dog"(保護犬)を飼っている人も何人かいました。彼らと話す中で、次に犬を迎えるときは保護犬にしようと決めていました。

今でこそ日本でも保護犬が一般的に認知されてきましたが、イギリスでは2013年から保護犬が広く受け入れられていたのですね。イギリス社会の保護犬への関心の高さが伺えます。

Kさん そうですね。保護犬に限らず、動物福祉全般への認知や関心も高いと思います。実際私も動物性食品を食べないイギリス人の友人と話したことをきっかけに、世界の畜産業が抱える問題に興味を持ち、ドキュメンタリー番組などで情報収集をするようになりました。

ご友人とはどのようなお話をされたのでしょうか??

Kさん 世界には、貧困による飢餓で亡くなってしまう人が多くいますが、世界中の穀物を合わせると全ての人の食事をまかなえるほどあるそうです。しかし実際のところ、その穀物の約70%は主に先進国で消費される家畜の餌として使われてしまい、貧しい国の人には行き渡らないのです。肉を食べることは世界の貧困や飢餓を増進させることにつながるのだと感じ、衝撃を受けました。

そこから畜産業について勉強を進めるうちに、生産現場の多くでは動物が単なる商売道具として扱われていることを知り、さらにショックでした。

個人的にお肉は好きだったのですが、お肉を食べる量を少しずつ減らしてみることにし、今では完全菜食になりました。

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Tさんとエディン

動物が好きな人であれば、畜産動物が感情を持った生き物として扱われていない問題に心を痛める人は多いのではないかと思います。しかし実際に動物性食品を食べないという行動に移すことはまた一段ハードルが上がる気がします。

Kさん 知らなかったふりはできないという思いが強かったです。ただ私たちも毎食肉や魚を食べていたので、急に完全菜食にしたわけではなく、本当に少しずつ減らしていきました。

未練なく辞めることができたきっかけがあって、しばらくお肉を食べていなかった時に息子の誕生日があり、特別な日ということで大好物だったチキンの丸焼きを作って食べたんです。すると不思議なことに全くおいしく感じず、逆に野菜をとてもおいしく感じるようになっていました。人の味覚は慣れなのだということを実感しました。

唯一心配だったのは息子の成長に支障がないかという点で、動物性食品の中でも魚だけは最後まで食べ続けていました。個人的にもお寿司が大好きで(笑)。ですが息子も一緒に食にまつわる課題について勉強するうちに、彼自身から「漁業も畜産と同じように環境に負荷を与えているし、劣悪な労働環境で働かされている人もいる、魚を食べるということはそれに加担していることになるんじゃないか」と言われてハッとしました。そこまでいうなら協力したいと思い、完全菜食になりました。

Sさん 完全菜食ですが、母は原材料と調理法を工夫してハンバーグやコロッケなども作ってくれますし、不自由を感じたことはありません。

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Sさん

Kさん タンパク質やカルシウムなど栄養バランスには気を遣っていて、幸い息子も健康に成長してくれています。動物性食品にこだわらずとも健康は達成できることなのではないかと思います。

イギリスの犬文化

そんなお話を聞くと、想像よりもずっと身近に菜食を感じますね。人権や動物福祉という観点から、イギリスでの生活は大きな影響を与えたわけですが、やはり現地のペット文化も成熟したものなのでしょうか。

Tさん 犬を飼っている人、そして犬自身もとても暮らしやすい文化が浸透していると思います。飲食店や公共交通機関にも犬を連れて入ることがごく普通でした。

Kさん ペットショプもなく、犬を迎える際はブリーダーまたは保護犬という選択肢でした。

Tさん しかしそんなイギリスでもいいことばかりではありません。コロナのロックダウンでペットを飼い始めた人たちが、普通の生活に戻るとお世話しきれずに手放してしまうといったニュースもありました。

Kさん またイギリスには賭け事の文化があり、ドッグレースも盛んです。街中で会う保護犬はかなりの確率で、ドッグレースで使われるグレーハウンドでした。ドッグレースのすべての引退犬が飼い主を見つけられているのか、大きな疑問があります。

Tさん ペットの安楽死がごく一般的であるということも飼い主の倫理観に頼る部分が大きいと思います。私たちが飼っていたマリアも高齢になって関節炎を患い、獣医さんから安楽死を提案されました。痛み止めの薬が効かず、歩行ができないため筋力が落ちて、私たちが介助しながら排泄するという状態が続いて、マリアの表情も全くなくなってきてしまった頃でした。

Kさん 獣医さんからは「人間は動けなくても本を読んだりテレビを見たりできるけど、犬は散歩とご飯が楽しみだから、自分たちでよく考えて」と言われました。これまで生きてきて、あんなに大変な決断はないくらい、本当に苦渋の判断だったのですが、最後の最後に安楽死させることを決断しました。

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Kさん

Tさん 安楽死は飼い主の判断に委ねられているので、まだまだ生きられる犬でも、人間側の勝手な都合で安楽死を選んでしまうこともできるんです。周りからもしょうがないよねという空気を作られますし、罪悪感を感じにくいようになっていると思います。日本ではペットが寝たきりになっても最期の最期まで看取るという意識ですが、イギリスではペット用品の売り場で、シニア犬用のオムツなどは売られていません。介護の段階になったらもう安楽死させてしまうんです。

Kさん 元気な犬を安楽死させることで、獣医師の間でうつ病が蔓延しているというニュースを見たこともあります。安易に安楽死させてしまうことにモヤモヤする一方で、犬が生きる喜びを感じられなくなっても延命することは本当に犬にとって幸せなことなのかも難しい問題だと思います。何が正しいのかわからない気持ちになりました。

安楽死が導入された本来の目的は、生きる喜びを感じられなくなってしまった犬が長く苦しまないようにすることだったはずですが、人間の都合で利用してしまうことは問題ですよね。難しい制度だと感じます。

保護犬エディンとの生活

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現在のエディン

ペット観を大きく揺さぶられるマリアとの別れを経て、日本に帰国したのちにペットのおうちからエディンを迎えられたのですね。

Kさん はい。保護犬を迎えようと決めてはいたのですが、息子の子犬から飼いたいという希望で、ペットのおうちで子犬を探していました。息子には「命を育てるということは大きな責任があるし品物と違って返品などはできない。」と伝え、朝の散歩は毎日息子がすることを約束しました。

エディンを迎える前に不安だったこと、迎えてから困ったことなどはありましたか?

Kさん 保護宅が遠くにあり、引き取りに行ったときが初めて会う状態であったので、性格がわからないことは不安でした。実際お迎えしてみるととても怖がりで、他の犬と遊ばせることができるようになるまでは少し時間がかかりました。

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Sさんとエディンとの初対面

どのようにして慣れさせていったのでしょうか?

Kさん 大型犬や成犬を怖がり、子犬は怖がらなかったので、まずは子犬だけと遊ぶ経験を積みました。そうするとだんだん成犬にも慣れていって、今ではほとんど大丈夫になりました。初対面の大型犬を怖がるときは、おやつなどで釣って、やり過ごすようにしています。

犬を飼っていた経験から、犬は楽しさがあれば恐怖を乗り越えられると知っていたので、とにかくエディンが楽しみながら馴染んでいけるようにと考えていました。

エディンを迎えて、息子さんの変化は感じますか?

Kさん マリアと暮らしていた時よりも、自分がお世話をするんだという意識がとても強くなったと思います。毎朝散歩をするという約束は今でも守っていて、天気の悪い日も散歩に行ってくれるので、エディンも息子のことをお兄ちゃんのように慕っているようです。

毎朝散歩をする約束は簡単なことではないと思います。命を育てることの意味がSさんにもきちんと伝わっているのですね。

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Sさんとエディン

自分の経験値に合った保護犬を迎える

保護犬であるエディンとの生活を通じて、どのようなことを感じましたか?

Tさん 動物が持つ感情や知能はまだまだわかっていないことが多いですよね。しかしエディンと一緒に暮らしていると、感情も知能もとても豊かであることを感じます。

Kさん 畜産動物でも、例えば豚は犬以上に知能があるという実験結果もあり、それを考えるとますます現状の畜産業や食文化は改善の余地が非常に大きいのではないかと感じます。

Tさん 社会の仕組みや人間の生き方には多くの矛盾があると思います。完全に潔癖に生きるということは難しいですが、できるだけ筋の通った生き方をしたいです。私たちが菜食に移行したことも、保護犬を迎えるという選択と共通してできる限り命を無駄にしたくないという思いからきています。そういった意味で、エディンを迎え、一緒に暮らしていることは貴重な経験であると思っています。

Kさん 世界には過酷な環境に暮らす野良犬を数多く保護して飼い主を見つける活動をしている方もいて、そんな方たちに比べれば、私たちの行動はとても小さな一歩ではあると思います。ただ、飼い主がいなかった子を私なりに大事に育てているのは、ひとついいことができたなという気持ちです。

それでは、ペットのおうちでこれから里親になろうか考えている方に向けて、メッセージをお願いします。

Kさん 保護犬の中でも、どんな人でも飼いやすい子からちょっと飼い主を選ぶような子まで、さまざまな選択肢があります。自分たちの犬経験に合った子をお迎えすると、人間も犬もハッピーになれると思います。そして何より、失われてしまったかもしれない命を受け入れること、それだけで絆が深まるような気がしています。

Tさん 動物を迎えるということは命を迎えるということです。何か壁があっても時間をかけてコミュニケーションの方法を学んだり、知恵を使ったり、根気良く向き合うことで乗り越えられると思います。自分たちがどれだけ向き合うことができるかを考えて、迎える子を決めると良いと思います。

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取材・文 スタジオダンク

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